2019/10/13 18:06
写真は語る。
シンプルに。ソリッドに。そしてハードボイルドに。
沖縄からこんにちは。
店長のやまうちです。
ウォーカー・エバンスのブログを書こうと考えていたら
ふと、こんな言葉が浮かんできました。
「Let The Photographs Do The Talking」
写真に語らせろ。
元ネタは「Let The Music Do The Talking」
80年発売のジョー・ペリーのソロアルバムですね。
ちなみに邦題は「熱く語れ」
さて
ウォーカー・エバンスです。
エバンスの写真はクールかつドライ。
落ち着いた口調で静かに語りかけてくるような
知的で文学的な感触があります。
「熱く語れ」とは対照的です。
1938年、まだニューヨーク近代美術館に写真部門がなかった時代に
エバンスは「MoMA初の」「個人の写真展」を開催します。
その時のカタログとして刊行されたのが本書なのですが
そこには「ある工夫」がありました。
公的な展覧会と私的な写真集。
ふらふらと見て回る展覧会と
1ページづつ進んでいく写真集。
対象が「同じ写真」だとしても
展覧会と写真集では見方がまったく違いますよね。
そこでMoMAは、その違いをポジティブに変換し
展覧会とはまた別物のカタログを作り上げました。
展覧会とは写真の内容を若干変更し、並べ方を編集し、
写真集にストーリー性を織り込んだのです。
結果、「American Photographs」は
「世界ではじめて写真だけで物語を綴った写真集」と評されます。
まさに
Let The Photographs Do The Talking
写真が物語を語った瞬間です。
撮されているのは1930年代のアメリカ。
ウォール街の大暴落後の暗く陰鬱なアメリカです。
エバンスはそんな時代に生きる人々を
誇張もせず、演出もせず、ただただクールに切り取っています。
その寡黙で静かな語り口には
だからこそ、の迫力と説得力に満ちています。
そして、鋭い知性をも感じさせ、
とても文学的でもあります。
実はエバンスは、若い頃に文学を志していたことがあり、
ヘミングウェイとも交流があったそうです。
その影響もあるのでしょうか。
エバンスの写真は、ヘミングウェイの文体に似ています。
シンプルで、無駄がなく、非常にソリッド。
ハードボイルド、と言ってもいいかもしれません。
ヘミングウェイが
少しの言葉で多くを表現したように
エバンスもまた
写真だけで物語を伝えようとしたのでしょう。
ふたりの目指す世界はとても似ている気がします。
だからこそ、意気投合したのでしょうか。
そんなことを考えながら眺めていると
なんだかヘミングウェイの小説に迷い込んだような錯覚にも陥ります。
言葉を用いずに写真だけで物語を紡いだ一冊。
本書はその後の写真界に大きな影響を残します。
Let The Photographs Do The Talking
写真は語る
ヘミングウェイの小説のように
シンプルながらも味わい深く、強く印象に残り、余韻まで心地良い一冊。
永久不滅の名作です。
American photographs / Walker Evans / 6900円
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